宇宙船が目の前に降りたら
迷わず手を伸ばし その船に乗り込みたい
小学生のころにアニメのエンディングで流れていた歌の一節で、同級生はみんな口ずさめるほど私の周囲では流行っていた。
私だって、絶対にそうする。
なんならそうなればいいのにと思っていた。子供のころは。
世界というのは大人のもので、理不尽な目にばかり合うと思っていた。
成長し就職してからも、世界というのは偉い大人のもので、やっぱり理不尽な目にばかり合うと思っていた。
けれど主人に出会って、結婚して、息子が生まれて、
世界にも優しいところがあるのだと知った。理不尽ばかりではないのだと。
そうして私は、絶対に地球から離れられなくなってしまった。
例え乗り込んだ先の銀河の果てに、莫大な富と名誉が用意されていたとしても、
めくるめく冒険の日々が待ち受けていようとも。
思えば私は生まれて二十数年あまり、自分のことも周囲のことも、大切にしてこなかったのだ。宇宙船が降りてきたら捨ててしまってもいいと思うほどに。とてももったいなくて、残念なことをしてきたと思う。
自分に大切なものが出来てようやく、自分のことも周囲のことも大切にできるようになった。そうすると不思議と世界は暖かいのだ。もっと早く気が付いていれば、人生はもっと楽しかっただろうに。
人生はなにも、大人になってから始まるものではない。生まれたその時からはじまっているのだ。たとえ覚えていなくても。
私は息子に、宇宙船なんか降りてきたって絶対に乗り込んでほしくない。
だから最初の鎖になりたいのだ。彼を地球につなぎとめられる存在になりたい。
山のようにおもちゃを差し出されたとしても「でも父ちゃんと母ちゃんが悲しむかな、仕方ない残ってやるか」と思ってもらいたい。
理不尽なこともいっぱいあるこの世界で、彼の人生が少しでも暖かく、優しくあるように、本当に大切なものが見つかるまでしっかりと手を繋いでいたいと思う。