ぶきっちょさんの共働き入門

2021年夏より家族でアメリカ居住。異国暮らしとキャリア断絶について考える日々

【キャリア】働かなくていいんだよ③

単身赴任を辞退して、家族となった彼とともに暮らしていくこと。仕事はのんびり探せばいい。その提案は私ひとりでは絶対に思いつかないものだったと思う。その生活は、あまりに遠い世界の話だったから。

「少し、考えてみるね」

そういった私に彼はほっとしたように言った。

「ありがとう」

 

即答で断られると思っていたのだろう。その顔は嬉しそうだった。

 

嬉しそうにしていたとき、私は思ったのだった。なぜ私という個人を必要としてくれる人がここにいるのに、そして養ってあげたいのだと言っているのに、「そういう慣例だから」という理由で転勤を命じる会社に無理して従う必要があるのか。

そうだ、会社を辞めればいい。

 

それまでの私にとって仕事とは、背水の陣で挑まねばならないものだった。お金がなければご飯が食べられない。奨学金の返済だってある。実家に帰るわけにもいかない。仕事ができないなんて許されない。どんなに理不尽なことがあろうとも、歯を食いしばって会社に行かねば。仕事をしたくない、辞めたいだなんて甘えだ!そうだ、落ち込んでいる暇があったら、企画書の一本でも書かなくては。

そんな風に24時間体制で仕事に明け暮れていた私だったけれど、いざ「会社を辞めていいんだよ」と言われて困ってしまった。しかもその「辞めていいんだよ」は、新人のころにかけられた「お前なんてもう会社辞めちまえ!」というのとは訳が違って(思い返すと今なら完全にハラスメント行為でアウトである)、思いやりと慈愛に満ちていたのだ。

 

はて、私は一体、なんのために仕事をしていたのだっただろうか。