【キャリア】君は下手な男よりよっぽど優秀だな!①
「君は下手な男よりよっぽど優秀だな!」
後ろから力強く肩を叩かれ振り向くと、先ほどまで電話でやりあっていた相手が立っていた。電話口ではかなり苛立った口調であったが、今は機嫌よさそうに胸ポケットから小銭入れを取り出している。
その人は私が所属している部門とは別部門(率直にいうとよく対立する部門)に所属している管理職の男性で、語気が強く目つきが鋭いことからなにかと周囲に恐れられている人なのだった。しかしきちんと誠意をもって説明すれば分かってくれるし、周囲が恐れるほどに怖い人だとは思っていなかった。恐ろしいほど頭のいい人だとは思っていたけれど。むしろ誰に対しても高圧的という点で、えこひいきをしないところは好感をもっていたほどだ。
私はちょうど自動販売機で温かいココアを買ったところだった。とっくに定時を過ぎていたけれど、トラブル対応で通常業務に全く手が付かず、まだ片付けなければならない仕事が山積みで午前様は確定だった。
彼は私の紙コップをのぞき込み「ココアか」とつぶやいた後、「女の子だな」と続けた。ココアを飲んでたら女の子なのかと、発想が意外と古いことに苦笑した。
彼は私が苦笑したことなど気にも留めずに、私のあとに購入した紙コップのブラックコーヒーをぐいっと飲み干すと「さっきの件だけど」と切り出した。
その日は社内で本来起きるはずのないトラブルが起きて、私の所属する部署はてんやわんやだった。なんとか取引先に影響を出さないように火消しを終えて、ようやく落ち着いたらこんな時間になっていた。そのトラブルの要因の一つが、彼の部下に起因するものだったので、先ほどまで電話でやりあっていたのだった。原因究明と再発防止を依頼していた。彼は彼で、その部署を代表する立場でもあったので、簡単に「はいはいすみません」というわけにもいかなかったのだろう。
「助かった。大事にならなくて済んだ。次回はないようにする」
彼がそう請け負ってくれたということは、本当に次回はないのだろう。こちらこそ、と対応についてお礼をいって頭をさげると、彼が冒頭のセリフに続けていったのだった。
「しかし、本当に惜しいな。どうしようもない男を採るよりは君みたいな女性を採ったほうがよっぽどマシだった。うちの部署に欲しいくらいだよ」