「デンチガナアアイ デンチガナアアーーーイ」
物悲しいような、おどろおどろしいような音を立てているのは、息子の電池式のおもちゃだ。幼児が思わず触りたくなるようなしかけ(ピッピーとなるボタンとか、紐にプラスチックのりんごがついたものとか、蛇口から水流音がするものとか)を集めた箱のような形をしている。生後6か月くらいから与えているが、もうすぐ1歳半になろうという今でも現役である。
ぐずっていてもそのおもちゃの電源を入れると一瞬気がそれるらしい。もう一年くらい、本当に大変お世話になっている。
だから我が家では敬意をはらってそのおもちゃを「箱さん」と呼んでいて、夕方のぐずぐずタイムにはよくお呼びがかかる。「箱さあーん!出番でーす!」
ポンポポポーン ポンポッポポーン!
電池が十分残量のある時はリズミカルな音楽が流れるのだが、電池がなくなってくると途端に物悲しいメロディーに変化する。だんだんと音が小さくなっていくとか、だんだんとテンポがゆっくりになっていくとかではなく、ある日突然変わるのだ。
その物悲しいようなおどろおどろしいメロディーは、音楽と言うよりもはや箱さんの断末魔である。
「デンチガナアアーイ デンチッガナアアーーーイ」と電池交換を催促されているように聞こえて、いつもどぎまぎしてしまう。
私は箱さんの断末魔をきくと、すぐにでも罪悪感で電池交換をしたくなるのだけれど、息子はなんならその状態の方が興味深いらしく、なかなか箱さんを手放してくれない。にやにやしながら箱さんの断末魔をきく姿は「面白くなってきたぜ」とでも言うようだ。彼のおもちゃなので彼がしたいようにさせるのだけど、その断末魔も「デデデデデデデ、デンチガアアアアーーーーー・・・アアア・・」くらいになってくると、息子もちょっと不安になるのか「何とかしろ」とちらちらこちらを伺うようになる。それが替え時だ。箱さんは生まれ変わって、また息子を元気に楽しませてくれる。
ところで主人は「さむい」とか「お腹がすいた」とか「寝不足だ」というときには、極端に口数が少なくなる。結婚した当初は「何か怒ってる?」「体調悪い?」と心配して何度も声をかけてしまったものだ。だが「なんでもない」とぶっきらぼうに答えたきりだんまりが続いたかと思えば、ごはんを食べ始めると急に機嫌がよくなって「なんかお腹すいてたみたい」とにこにこするのを何度も経験して、あほらしくなってやめた。
今は主人の口数が少なくなると、「靴下履く?」「ごはん先にする?」「昼寝してきたら?」と聞くことにしている。
結婚して5年たった今となっては、心配されるよりも先に問答無用で電池交換(不調の対処?)をされる主人には申し訳ないけれども、彼が無口でも箱さんと違って誰も喜ばないので、さっさと元気な主人に戻ってもらうことにしている。