保育園の準備などでばたばたしているうちに、息子はできることが一気に増えていた。
電動鼻吸い機をぬいぐるみの鼻に押しあてて鼻水を吸ってあげたり(そんな彼の鼻には立派な鼻ちょうちんができている)、取り外すことさえできなかったメガブロックで何やら車のようなものをつくってみたり。
まわりに小さい子供がいなかったから、感心することばかりだ。一歳のこどもというのは、こんなにも賢いものだろうか。親ばかここに極まれりである。
そんな成長著しい息子だが、同級生と比べて発語が早いほうではないらしく、まだ父母に呼びかけることはしない。「とうちゃん」「かあちゃん」と呼んでくれる日を指折り数えて待っているのだが、彼には彼のペースがあるのであろう。
けれど少しずつ言葉は覚えているようで、「バス」や「トラック」、「いただきます」「ありがとう」に加えて、新たな単語を習得した。
「危ない!」である。
これはちょっとショックだった。
普段から、なるべく彼のすることを見守り、極力「危ない!」といって行動を制限することは我慢しているつもりだったからだ。以前、何かの折に「日本人は子供に危ない危ないと言いすぎる」という話を聞き、彼の自主性を重んじるためにも、本当に危ない(大きな怪我につながるとか、火に近寄るとか、極端に不衛生で健康上問題があるとか)とき以外は忍耐、忍耐の日々と思っていたのに。
根が過保護なので、我慢していなければ人の100倍言ってしまう自信があった。だからかなり気をつけていたというのに。
こどもというのは本当によくみているし、聞いているのだろう。
たぶん、気を付けているつもりでしょっちゅう使っているのだ「危ない!」と。
そんな「危ない」デビューを果たした息子だが、使い方が正しいようなそうでもないような、である。ちなみに発音は「あっぷー!」だ。
廊下を猛スピードで走って転び、むくっと立ち上がったかと思うと「あっぷー!」
コップを渡したら、手を離して落としてしまい「あっぷー!」
椅子に座ろうとして、腰を落とす位置が前すぎて尻もちをつき「あっぷー!」
・・そう、確かに危ない。
危ないのだけれど、どちらかというと既に「アウト」なのである。危ない!という注意喚起や危険予知には遅すぎるタイミングでの「あっぷー!」なので、「いやいやいや間に合ってないから!」とつい突っ込んでしまう。
それでも息子は新しく覚えた「あっぷー!」に夢中なので、使えたことに満足そうだ。すでにアウトだけど泣きもせず満足気なので、こちらもつい笑ってしまう。
ここでふと不安になったのは、私が無意識に使っているであろう「危ない!」だ。
もしかして「危ないと言ってはいけない」と思っているせいで、ぽろっと使ってしまう「危ない!」でさえも、逡巡によって一拍遅れてしまっているのであろうか。
もしそうだったら全然危険予知になってないぞ・・と息子が寝静まった後、リビングで今冷や汗をかいている。もしそうだとしたら、これぞまさにアウトである。
ふう危ない危ない、はやめに気が付いてよかった・・あっぷー!