「ちょっとツラかせや」
最近主人がよく使う言葉だ。字面にするとちょっとモラハラじみている。
少し前のことだが、パソコンが壊れた。うんともすんともいわない。電源すら入らない。秋の長雨が続いたせいだろうか。電気屋のおじさんには「湿気のせいでしょう」と言われた。もう10年くらい使っていたので、寿命だったのかもしれない。
これもまたいい機会かと思い、新しいパソコンを購入した。顔認証システムの搭載されているパソコンで、持ち主登録をした私がいなければ起動できない。
しかし電気機器の設定などは主人の得意分野なので、なんやかんやと主人が操作することも多い。いつの間にかウイルス対策ソフトが入っていたり、言語翻訳ソフトが入っていたりする。そのときに私の顔がないとパソコンを起動できないと気づき、私を呼ぶのだが。
「おーい、ちょっとこっち来てー・・
じゃなかった、ごめん『ちょっとツラかせや~』」
なぜか新しいパソコンを導入して以降、顔認証させるときに「ちょっとツラかせや」と言うのが彼のブームなようで、わざわざ言い直してまで使いたがる。強面なので言葉そのものは似合うのだが、普段の彼が絶対に使わない言葉なので、違和感満載でおかしくなってしまう。
取ってつけたようなその言い草に笑ってしまいながら顔認証するのだが、ちゃんと真っすぐカメラを見て静止しないと反応しないので、いちいち時間がかかる。
そんな私に「ちょっと早くしてくれる?」とのたまう主人は、真面目な顔を装っているが「してやったり」と思っているのが見え見えなのであった。