ぶきっちょさんの共働き入門

2021年夏より家族でアメリカ居住。異国暮らしとキャリア断絶について考える日々

【回想】忘れ物の数だけ、黒板に正の字を書きましょう②

子供というのは大人をよく見ている。幼くてもその自治力というか正義感というか、与えられたルール内で大人の意思に従うのは上手なのだ。そしてその自治力が、新たなルールを作り出した。

「先生、ぶきっちょさんは落とし物も多いです。落とし物も数えたほうがいいと思います!」

クラスのリーダー格だった女の子だ。足が速くてスポーツ万能。声が大きくて、いつでも一番目立っていた。そして、彼女は忘れ物が少なかった。

どのような経緯でそのルールが採用されたのか覚えていないけれど、おそらくはすんなりとその女の子の意見が通り、忘れ物のほかに落とし物まで数えられることになった。

ただでさえ正の字が積み重なっていたところに、落とし物まで加えられて、もはや黒板には私を糾弾するための正の字しか見えないほどであった。このころには、私の名の上に正の字を書くことそのものが楽しくなっていたのだろう。私以外の子の忘れ物や落し物は見逃されるのに、私のものだけは非常に厳格にカウントされていったのだ。しかし、いくら私が不公平だと思おうとも、その見える化された黒板が「ダメな子」と示している以上、説得力などまるでない。ただ毎日、茫然と黒板に増えていく正の字を眺めていることしか出来なかった。

そして、子供ながらに「理不尽」だと思った出来事が起こる。

教室で本を読んでいたら、リーダー格の女の子がつかつかとやってきて、わざと私の机にぶつかり、乗っていた筆箱を床に落としたのだ。母が選んだ朱色の筆箱だった。あまり好きじゃないキャラクター(某世界的に有名なねずみの夫婦)が描かれていて、早く新しいのが欲しいなと思っていた筆箱だった。プラスチックでできていて、落ちるとガチャンっ!と結構な音がした。「えっ」と思った瞬間、筆箱は開いて中から鉛筆やら鉛筆削りやらが飛び出した。女の子はしゃがみこんで、すばやく数を数え始めた。「えんぴつ3本、えんぴつけずり1個、ふでばこ1個!」というように。そしてその合計値を、さっさと後ろの黒板に書きつけてしまった。堂々とした、正の字で。