カップラーメンの汁を盛大にシンクにぶちまけた先輩に同情していたら、次の瞬間その先輩は悪びれず「あ、掃除しといて~」と言って、さっさと立ち去ってしまった。
呆気にとられたのは私の方だ。
・・え?自分で汚したものを、今その子に掃除しておけと言った?なんの権限があって?そもそもカップラーメンの汁は水屋ではなく、汚水を流すための別の洗い場までもっていくルールになっているのに?
しかしその子はとくに動じることなく、スポンジに洗剤をつけて、掃除を始めていた。慌てて手伝いを申し出て、汚れた湯飲みを一緒に洗った。そして洗いながら、私はもやもやが止まらなかった。「私が帰る前でよかったよ~すぐ掃除しないと、落ちなくなっちゃうから~。これ、結構匂うよねえ~」とその子はのんびり言っていた。
なぜ。なぜ自分の汚したところを平気で他の人に掃除させることができるのか。
翌日その先輩と会ったとき我慢できずに「あの・・昨日のラーメン・・」とつぶやくと「あ、お前も片付けてくれたの?ごめんごめん、女性の仕事増やしちゃって」と笑った。
・・・女性の仕事!!!
・・・じょ・せ・い・の・し・ご・と!!!
普段の利用で自然体で汚れるところを、みんなで分担して掃除するのとはわけが違うだろう。明らかに、ラーメンの汁を盛大にこぼすという彼の過失で、すでに掃除が済んでいた彼女に新たな仕事を増やしたにも関わらず、それを「女性の仕事」だからやって当然。まあやるべきその仕事の量をちょこっと増やしちゃってごめんね、程度に思っているのだ。謝る必要もないと思っているかもしれない。実際、手を動かしてくれたその子には謝罪も感謝もしていないのだ。
なにせそれは彼にとって「女性の仕事」なのだから。
呆れかえった私は、しかし当時まだ意気地なしで仕事のできないただの新入社員であった。すでに仕事で、もうお腹いっぱいというほどその先輩にはしごかれており、正当と思っていようが、なにかを意見することなどできそうもなかった。