【夫婦のかたち】焼肉ですかそうですか
とある理由で私はいま、それはもうすこぶる焼き肉が食べたい。
息子の寝かしつけを終えて、残った家事を片付けてほっと一息ついていた夜のこと。こんな会話があった。
「来週どこかで飲み会入りまーす」
「うん。OKだよー。来週のどこでー?」
「うーん・・・焼肉!!」
あまりにも自然な彼の返答に、一瞬黙ってしまった。確かに私は「どこで」と聞いた。「どこ」と聞いたら場所を答えるだろう。その直前の会話で「来週のどこか」という言葉が使われていなければ。
黙っている間にも、主人はどこの焼肉にいくか思案しているようであった。
・・・〇〇(店舗の名前)かな、あそこの味付きカルビ食べたい。・・・いや△△もいいね。ハラミが分厚いのはポイントが高い!・・・でも◇◇も最近行ってないなー。ホルモンが最高なんだよなあ。それから・・
四軒目の焼肉屋さんの名前に差し掛かったところで、冷静になった私は主人を遮って質問しなおした。はじめは冗談で言っているのかと思ったが、まじめにどの焼肉屋さんに行くかを考えているようである。
「質問が悪くてごめん。私は来週の、いつ、あなたのご飯を準備しなくてもいいかを教えてください」
主人も私の質問の意図に気が付いたらしい。バツが悪そうにしていた。
日本語って面白い。
普段、自分の予定を立てるときや、相手の予定を立てるときに考慮していることが全然違うのだ。
私はまず、息子のことを考える。息子のごはん、息子の昼寝、息子の生活リズムをいかに壊さずに済むか。そして主人のことを考える。主人のごはん、主人の睡眠時間、そして主人が体調を崩さないように気を配る諸々の家事。
私は主人と息子が不自由なく生活を送るために、自分の予定を調整するのが常だけれど、主人の目線は外を向いている。
家庭内の些事にも心を砕いてくれるし、いつも感謝を忘れない人であるので、そのことに不満があるわけではない。ただ、ああ普段の視線の先には別のものがあるんだなあと興味深く思った出来事だった。
彼が、こどもが生まれた後も日々の生活を楽しめているようで何よりである。きっと安心して外を向けるのは私の家政采配が素晴らしいからに違いない(すみません、言ってみたかっただけです)。
ただ困ったことに、頭の中に流れ込んできた焼肉屋の名前と詳細情報は、めくるめく想像とともに私の中に すっかりインプットされてしまったようだ。脂の焦げる音、ほとばしる肉汁、洋服全体に染み付くあの匂い。換気扇がかきまわす煙、テーブルには汗をかいたレモンサワーの中ジョッキ。
その会話から3日経った今でもものすごく焼肉が食べたい(けれど1歳児を連れてはいけないからフラストレーション甚だしい)ということだけは、ちょっぴり主人が恨めしい。