「◇◇くーん、その次は▲▲ちゃーん」と次々に息子の同級生が呼ばれていく。息子の順番はもうすぐだろうか。キョロキョロ、そわそわ。落ち着かないのは親である私の方だ。検診センターは、このご時世でもそれなりに混雑していた。
一方で息子はもう2時間近くも、泣きもせず騒ぎもせずに利口な様子で座っている。
息子の1歳半検診。日によって所要時間にばらつきがあるためか「どのくらい待ち時間がかかるか分からない」と書かれた検診のお便りを握りしめ、もはや戦々恐々、戦場に向かう気分である。
ところが、いざ始まってみれば息子はこれまでになく大人しく、まるで「いまは大人しく待つ時間だぜ、かあちゃん」とでも言うように、2時間以上大人しく待って見せたのである。1分だって動き回らでいられようかと日々走り回っている息子が、じっと周囲を見渡しながら口を引き結んで。拍子抜けしてしまった。
これは本当に息子だろうか、と思ってしまうほどの違和感。
黙々と身長体重を測られ、黙々と指示されたとおりに積み木を積み(発達の度合いを見るために積み木を積ませるんだそうです)、黙々とただ座って自分の順番を待っていた。持参したおもちゃの半分は、出番さえなかった。
検診が終わり自宅へつくと、息子は無言でプレイマットにダイブしゴロゴロクネクネと身をよじり始めた。
ちらり、とかち合う視線。無表情の息子。無表情の母。
親子だからこそ通じ合うものがある。一瞬の間をおいて、
「こちょこちょこちょ~~!」と勢いよくくすぐると「あっひゃあ~~!」とけたたましい声で笑い始めた息子。
ああ、違和感の正体はこれか。
検診のさなか、とても大人しくしていたけれどニコリと微笑みもしなかったのだ。息子がいかに普段ニコニコゲラゲラ笑っていたのかに気が付いた。
よっぽど気を張っていたのであろう。その後は取り戻すかのように、笑ったり泣いたり怒ったりで忙しそうにしていた。べったりと両親にひっついて離れないこと丸3日。半日頑張った対価は、3日分のべったりとなるらしい。
そしてふとした瞬間に両親をじっと見つめては何か言いたそうする。
思い立って「検診頑張ったね。いい子で我慢してたね」と何度でも褒めると、にまぁっと笑って何度でもセルフよしよし(自らの手で自らの頭を誇らしげになでる)。
手がかかるんだか、かからないんだか分からないこどもである。
そんな内弁慶な息子はたまらなく可愛いのだが、この調子で大きくなると、保育園の発表会では何百回賛辞を要求されるだろうかと空恐ろしい。