【今週のお題】頭に流れるあのメロディー
「ふぁんふぁんふぁん ふぁーーーん・・・」
息子の口から再生されたのは、完璧な音程のあのメロディー。
残念なときや失敗したときに、バラエティやクイズ番組で流れるアレである。
3歳になる息子は、大変保守的な性格だ。
得意なことには素晴らしい集中力を発揮し、何度も誇らしげにやってみせてくれるのだが、ひとたび彼の「苦手なこと」にリスト入りしてしまうと、もう何があってもやりたがらない。
例えば、ふりかけ(瓶詰めではなく、ひとつひとつプラスチックで個包装された5cm四方のキャラクター付きのもの)を開けること。両手でふりかけの端をつまんで、片方の手だけをひねって引っ張る、という動きが難しいようで、盛大にこぼしてしまったことがある。どうやら息子は「できるに違いない」と自信満々だったようで、いざ失敗しとときの嘆きようは、それはもうすごかった。
「僕の手がねえ!まだ小っちゃいからねえ!!できないんだよおおお・・!」
両手で頭を抱えてオンオン泣く様は、もはや慟哭であった。
※しかし立派な釈明付き。
とにかく「失敗」が嫌なようである。
彼にとって、毎日がピンチの連続だ。ふりかけをこぼしては悲嘆にくれ、パズルが解けなくては床にうずくまって泣き、塗り絵をはみ出しては「もうイヤ!」と匙を投げる。
うーん。嫌なことは無理やりやらせる必要はない気もするけれど、ちょっと打たれ弱すぎる気もする。どうしたものか、まあそのうち人生の荒波に飲まれるか、と呑気に眺めていた私は、ある日衝撃を受けることになる。
コップで牛乳を飲んでいた息子が、勢い余って中身をぶちまけ、周囲は牛乳の海。朝着替えたばかりの、お気に入りの新幹線Tシャツが早くも牛乳まみれ。
あ、これはまずい・・と思ったのも束の間、流れてきたのは冒頭のあのメロディー。
「ふぁんふぁんふぁん ふぁーーーん・・・!!」
呆気にとられて、訪れた静寂。支配するのはなんともコミカルな空気。
息子は泣かなかった。嘆きもしなかった。ただバツが悪そうに笑っていた。
彼はいつの間にか身につけたのだ、失敗と折り合いをつける彼なりの方法を。
これには親である私が度肝を抜かれてしまった。
息子は「失敗」を恐れながら「失敗を恐れている自分」にも危機感をもっていたのだ。
そしてそれ以来、息子は失敗を以前ほど恐れなくなった。
失敗しても大丈夫、無敵のあのメロディーがあるから。
人生はピンチの連続。でも大丈夫、またやり直せばいい。
息子から学んだ大変よい学びではあるが、ひとつだけ疑問なのは、一体彼がどこでそのメロディーを覚えたのかということ。両親ともに日常的に口ずさんだ覚えがなく、アメリカ生活で日本のテレビ番組に触れる機会もない。
もしかして、日本人の遺伝子に組み込まれているのかな?という疑問を残したまま、今日もやらかした息子は口ずさむのだ。
「ふぁんふぁんふぁん ふぁーーーん・・・」