「冷やし新幹線、はじめました」
ふと夏の甘酸っぱい麺類を宣伝する看板が頭をよぎった。チリーンという風鈴の音色付きで。
たまごポケット。
冷蔵庫をあけてすぐ、ドアの内側に備え付けられているあのスペース、よそのご家庭では何が収納されているのだろうか。以前の我が家では、たまごの居場所だった。なんせたまごポケットというくらいなので。
たまごは万能食材。調理に使用する頻度が高いためなのか、冷蔵庫内で最も取り出しやすい位置にある。まさに特等席。
そんな食品の特等席であるはずの我が家のたまごポケットには、たまごよりも少し小ぶりな新幹線たちが仲良く3台、神妙な面持ちで眠っている。
息子がプリスクールから汗びっしょりで帰宅すると、真っ先に向かうのが冷蔵庫だ。たまごポケットでキンキンに冷やされた新幹線のもとへ一目散。取り出した新幹線をためつすがめつ眺めて、頬ずりしたり鼻にひっつけたりして堪能する。
この新幹線、母国日本で販売されている「冷やすと色がかわる」という素晴らしい特性を備えたシロモノで、長らく息子の第一軍おもちゃとして活躍してくれている。
(ちなみに3歳の誕生日に与え、彼が包みを開いた時の喜びようはとんでもなかった。
「ここ、こ、これはあああーーー!!
う、う、ううううれしいーー!うれしいいぃぃぃーー!!」と絶叫)
プリスクールを頑張ったら、かえっておうちで「冷やし新幹線」タイム。
大切な息子のルーティーンだ。
プリスクールではどうやら、いつもより少しキリっとした顔で周囲と足並みをそろえて頑張っているらしい息子が、一息つける時間。やれやれ、今日もよくやった。
こども体温で握りしめたり、ほっぺたにくっつけたりしているとすぐに色が変わってしまうので、息子の「冷やし新幹線」タイムはすぐに終わってしまう。そして名残惜しそうに、母にぬるい新幹線を手渡すときには、息子は「おうちの自分」を取り戻している。
よく笑いよく泣きよくしゃべる、父母にまとわりついてけたたましい声をあげて喜ぶ、甘えん坊の騒々しい息子に。
毎日少しずつ成長していく息子が、彼なりに編み出したリラックス方法。
きっと我が家では当分、たまごは冷蔵庫の奥に追いやられたままだろう。
特等席はもうしばらく、新幹線さんたちの居場所である。
「冷やし新幹線、はじめました」
今週のお題「冷やし◯◯」