ぶきっちょさんの共働き入門

2021年夏より家族でアメリカ居住。異国暮らしとキャリア断絶について考える日々

【妊娠】若いんだから席を立て 1/2

妊娠中の回想です。ブログ趣旨と少し異なりますが、ご興味のある方よければ覗いて行ってくださいませ。

 

息子を妊娠していたころ、私はかなり悪阻が重いタチだったようで、毎日ふらふらになりながら出勤していた。妊娠しているからといって仕事が減るわけでもなかったし、横になっていても縦になっていても気分が悪かったので、ひたすら会社のデスクにしがみついて仕事をしていた(今思えば休むべきであったと反省しています)。

しかしその日は「あ、これはまずいな」と思うほどの体調の悪さで、21時頃に力尽きて帰途についた。仕事のTODOリストはちっとも埋まらず、関係先に「明朝対応しますので」と頭を下げながら。

 

吐き気、貧血、からだの怠さ。

進まない仕事、積み重なる謝罪、失っていく信用。

 

からだも心も疲れ果てていたその日、時間が早かったためか、帰りの電車はいつもより混んでいた。しかし幸い優先席はいくつか空いていたので「助かった」と思いながら、一番端の席に座った。ただ座っていると吐き気を強く意識してしまうので、気を紛らわすために文庫本を開きながら、乗換駅を待っていた。

吐き気をやり過ごしながら電車に揺られていたら、目の前に着物の女性が立った。おばあちゃん、というには少し若いくらいの見た目の人で、背筋がよく、矍鑠とした感じの着物がよく似あうきれいな人だった。着物はベージュか薄いクリーム色かといった感じの色で、金や朱色の刺繍が入っていて上品な雰囲気だった。ぼんやりと「きれいだな」と思っていたら、横から強い力でぐっと腕を前方に押された。その勢いで背もたれから少し浮いた背に、またぐっと力がかかり、押し出されるように私は優先席から立ち上がっていた。着物の女性に危うくぶつかりそうになった。

何が起きたか分からず振り返ると、隣に座っていた老齢の男性が、厳しい表情で私を睨んでいた。

「若いんだからっ!さっさと席を立て席を!全く情けないっ」

吐き捨てるようにそう怒鳴って、一転、着物の女性に優しく声をかけた。

「どうぞ、座ってください。いま空けましたので」

いま空けました、いま空けました。その言葉にぼんやりしていると、女性は大きな声で「まあまあ!まあーご親切にどうも!わたくしこう見えて今年55になりましてね、まだ足腰は丈夫なんですけどね、せっかくですから有難く。まあまあこんな紳士、今時いらっしゃるんですねえ~」と言いながら、ずずいっと席に座った。私の方には一瞥もくれなかった。

「いいんですよ!こうやって言わないと、世の中は良くなっていきませんからね!全く最近の若い女は礼儀を知らんから・・・」

大きな声だった。車内の端まで響くほどの。情けない、礼儀を知らない奴めと。最近の若い女はと。「若い」「女」というダブルインパクトに、ようやく自分が大声で叱責されたことに気が付いた。

 

本を読んでいたのが悪かったのだろうか。お年を召した方が来たら、どんなに具合が悪

くても若者は席を譲らねばならなかったのだろうか。

私が席を立ったことで、世の中は少しだけ良くなったのだろうか。