ぶきっちょさんの共働き入門

2021年夏より家族でアメリカ居住。異国暮らしとキャリア断絶について考える日々

【今週のお題】その美味さは陣痛をも超えて

痛い。陣痛の合間に差し出されたストロー。痛い。力の入らない体を起こしてなんとか吸い付く。痛い。もったりとしたチョコレート風味が口いっぱいに広がる。とんでもなく甘い、濃い、美味い。ああ、求めていた味です。あああああああ痛い痛い痛い痛い、美味い痛い。

一瞬、痛いのを忘れて「美味い」が脳みそを支配しました。ありがとうハーゲンダッツ

 

ああ、思えば体重制限の厳しい妊娠生活だった。先生はとっても厳しかったけれど「陣痛が始まったらいくらでもアイス食べていいから!!」という言葉を胸にこの日まで耐え忍んできた。一体何度、お腹がぐーぐー鳴って眠れない夜を過ごしただろう。

陣痛の始まりと共に主人に「いたたた・・は、ハーゲンダッツを・・!痛い・・い、いいからハーゲンダッツを・・!」と言い募り、病院へ向かう道すがら最優先で入手して息も切れ切れ産院に駆け込んだのだった。

ところがいざ産院に入院してみると、部屋には冷凍庫がなかった。

冷凍庫が、なかった。

先生が「陣痛中のアイス」をやたら推してきたので確認もしていなかった私が悪いのだが、アイスがあるのに冷凍庫がないなんてひどい。あんまりである。みんな馬鹿正直に陣痛中にアイスを食べようとはしなかったのだろうか。

主人が買い込んだハーゲンダッツは、申し訳なさそうに冷蔵庫で溶け切っていた。もうでろっでろ。

 

でろでろのアイスの存在を思い出したのは、陣痛から丸一日が経過しようというときだ。なかなかお産がすすまず、痛みで食事もとることができなかった私は文字通り疲労困憊であった。このまま長引けば、陣痛が弱くなり危険かもしれない・・と心配した助産師さんが「いいから何でもいいから食べなさい!お腹に入れなさい!」と叱咤激励し、思い出したのがそのアイスである。

付き添ってくれた主人が、すっかり溶け切った液体状のアイスにストローをさしてくれた。そこで冒頭にもどる。カップ4つをぺろりと平らげて(吸いつくして)しまった。

おかげさまで母子ともに無事なまま、息子はこの世に誕生した。

 

それまでハーゲンダッツはいつだってバニラ派だったけれど、それからはチョコレート味を贔屓にさせてもらっている。しっかり冷凍されてスプーンがささらないくらい固い状態が私好みだ。

にもかかわらず、それ以降に食べたどのチョコレートハーゲンダッツも、あのときの美味しさを超えられない。あんなに美味いチョコレート風味には、もう生涯出会えないと思っている。

 

今週のお題「チョコレート」