「あの、ぶきっちょさん、タオルはきちんとループ部分を引っかけてください」
「すみません、ぶきっちょさん、おむつゴミ箱に袋がかかっていませんでしたよ」
保育園に通い始めた当初、保育園での準備工程が頭に入っていなくて、よく先生にご迷惑をおかけした。
持ち物については、自宅で忘れ物防止メモを壁に貼って対策できていたのだが、保育園に到着してからの準備に抜け漏れが多かったのだ。仕事のようにTODOリストをパソコン上に常に表示しておくわけにもいかず、はじめはよく見落とした。同じようにTODOリストを使えばよいのだが、そうすると出先なのでリストそのものを忘れそうだ。
息子を迎えに行くと保育士さんが申し訳なさそうに「あの・・」と小声で教えてくれるのだが、もう背を90度に曲げて平謝りである。
ちっとも自慢にならないが、こどもの頃の私は忘れ物番長だった。いまも正体は忘れ物番長であるが、巧妙な擬態により、職場にも主人にも隠しおおせている。自分の「気を付けます」では対策にならないと十分に理解している番長なので、ある画期的な取り組みをはじめてみた。指差呼称である。
ループタオル、よし! おむつゴミ箱、よし!
30を過ぎたもう立派な大人の女性が、腕を真っすぐに伸ばして人差し指を立て、ぐるっと周囲を見回して「よし!よし!」と言っている様子は結構シュールだろう。しかし、忘れてしまうのだから仕方ない。なりふり構っていられないではないか。先生の前はもちろん、他の保護者がいてもやっている。ちなみに、だれにも突っ込まれたことはない(その方が恥ずかしさ倍増)。
これが効果絶大で、指差呼称を始めた日からぴたりと抜け漏れがなくなった。さすが、国鉄で古くから導入されている手法である。
子は親の背中を見て育つというが、息子もばっちり私の背中を見ていたようだ。3日もしないうちに「よし!よし!よし!」をマスターしてしまった。小さなクリームパンのような手でちょんと人差し指を立て、くるくる回りながらあちこち指さして「いっし!いっし!(よし!よし!と言いたい)」と立派な指差呼称を披露している。
けれど私は知っている。息子は、気合を入れていないと「やったらやりっぱなし、忘れっぱなし」になる忘れ物番長の私とは違うことを。もうすでに父親譲りの几帳面な一面を垣間見せていることを。
戸が開いていれば「開いてる!」と閉めに行き、お気に入りのおもちゃは同じ場所にしまう。今はまだ集中力が足りなくて散らかし放題だが、少しずつ片付けに関してこだわりを見せ始めた。
職場や主人の前では見破られていない正体が、近々息子には見抜かれてしまうのではないかと戦々恐々としている。