ついにこの日がやってきたか・・と私は慄いていた。
これまでに我々夫婦が一度も息子に教えたことのない単語を、嬉々として息子が叫んだからだ。そう、あの愛と勇気がお友達の国民的ヒーローの名前である。
「あんぱん!!!」
やはり、やはり保育園に通い始めたら覚えてくるか。息子本人がのぞむまで、決して手を出すまいと心に決めていたのだが、もはやここまでである。
我が家には、まだキャラクターもののグッズは多くない。息子がいちばん好きなキャラクターはしまじろうさん(我が家ではしまじろうは「さん付け」)であり、しまじろうさんグッズはベネッセからしか出ていないからだ。通常のおもちゃ屋では、見つけられても音のなる絵本とかリュックとかくらいのものだったので、買いたくても買えなかった。そのために我が家のおもちゃたちは数が多いわりに整然として見える。
しかし、しまじろうさん以外でほぼ唯一持っているキャラクターもの(1歳の誕生日に親戚からプレゼントしてもらったもの)に、それは描かれていた。大きくプリントされた赤と茶色のまんまるフェイス。みんな大好きアンパンマン。
「これはアンパンマンよ」なんて一言も教えていないが、その日息子はハッキリと言ったのだ。彼を指さしながら「あんぱん!」と。まだとうちゃんともかあちゃんとも呼んでもらっていないが、まあ国民的ヒーローが相手ならば負けもやむなしであろう。(ちなみに先日、我々を差し置いて、お掃除ロボット「ルンバ」のことも名前で呼びはじめました。両親は惨敗続き)
おもちゃ屋でも子供用品店でも、スーパーのお菓子売り場でも見かける彼のグッズやおもちゃは、どれもおしなべて色とりどりで鮮やかだ。比較的地味な(そして私の偏愛する)食パンマンさまやチーズがメインならばそうでもないのであろうが、メインキャラクターであるアンパンマンがどーんと描かれているものは、それだけで存在感もひと際だ。
きっと遠くない未来、しまじろうさんが控えめに鎮座している我が家のリビングに、赤と茶色のヒーローがどんどん台頭する。親しみはどんどん愛着となり、アンパンマン教にのめりこんでゆくのだろう。日本の多くのこどもたちがそうであるように。そして、私がそうであったように(私は中学生にあがるころまでアンパンマングッズを愛用していました。筆箱とか)。
恐れているのは、息子がアンパンマンが好きと知ってしまったが最後、私がどんどんアンパンマングッズを買い与えてしまうであろう、という未来がみえていることである。
息子は早いうちからしまじろう教の信者で、これまでEテレも他のアニメも、しまじろうさんにかなうことがなかった。
しかし、その確固たる地位もここまでだ。ライバルは手ごわいが、今後の健闘を祈るのみである。