【育児】あっぱれむすこ大先生
「あーっぱえ!あーっぱえ!」
息子の小さな手が、大きく宙を平泳ぎするように、円を描くように動く。腕はぴんと伸ばされ、短い指もしゃきっと伸ばされ、間違いなく彼にできるもっとも大きなジェスチャである。
息子としては「いっぱい」と言いたいらしい。どうやら数の多さ、少なさの概念を学んだようだと気づいたときは感心した。1歳児と言うのは、こんなにも賢いものだろうか。
図鑑に電車が並んでいるのを見つけては「あーっぱえ!」
メガブロックを床に広げては「あーっぱえ!」
テレビに動物の群れがうつれば「あーっぱえ!」
発音には多大に改善の余地があるが、その言葉をつかう場面をみるに「いっぱい」の意味は正しく理解しているようである。
3両編成の新幹線のおもちゃを与えたときのことだ。
これまで持っていたのはどれも磁石でくっつくタイプの木製電車だったが、息子の電車熱の高まりを勘案して、新たに電池可動式のプラスチック新幹線を与えた。電池で車体が動くので、車両間の継ぎ目も丈夫なフックで出来ている。磁石ほどすぐに外れないので、きちんと3両まとまって動く様子は、新幹線らしくかなり迫力があり、堂々たる様だ(さすが単価が3倍しただけのことはある)。
はじめは息子も大喜びであったが、遊び始めてすぐに、新幹線をずいっと私に突き出してぐずつき始めた。気に入らなかったのかと思ったが、どうやらフックを外せといいたいらしい。指示に従い、粛々とフックを外すと「きゃはーっ!!」と歓声をあげて立ち上がり、小躍りをはじめた。
「あーっぱえ!あーっぱえ!」
かえるのように宙を全力でかきながら、その場でくるくる回って喜びを表現する息子に、ぽかんとしてしまった。
「あーっぱえ!あーっぱえ!」
私に喜びが伝わっていないと察した息子は、小躍りをやめて新幹線を指さした。3両がバラバラになった、哀れな新幹線。あたまとおしりはいいが、胴体部分だけみてももはや何かよくわからない、可哀想な末路である。
ぴっ!ぴっ!ぴっ!と3両の車両を指さし、手を大きくひらいて「あーっぱえ!」
そこでようやく息子が、新幹線が「増えた」ことを喜んでいると気が付いた。頭の凝り固まった大人には「ひとつがバラバラになってしまった」ようにしか見えなかったが、息子には大好きなおもちゃが「増えた」ように見えたのだ。
それは大喜びもするであろう。1つより2つ、2つより3つである。そりゃあ新幹線は多いほうがいいに違いない。全くもって、息子は正しい。
ようやく理解した私は、息子とともに新幹線の「増えた」ことを喜んだ。その後、新幹線は再び連結されることなくずっと「増えた」ままである。
ところで息子の発する「あーっぱえ!(いっぱい)」は、意味を知らずにそのまま聞くと「あーっぱれ!(天晴)」に聞こえる。
物事の見方、捉え方によっては凶事も吉事。まさにあーっぱれ!な出来事である。